その当時、畑を荒らす鹿が増えすぎると、鹿狩りが盛んに行われていた。そこで北条早雲は、「自分の国の鹿が箱根の山へ逃げ込んでしまったため、自分の領土へ追い返したい」とあらかじめ申し出て、小田原城の城主だった大森藤頼の気を緩ませておいた。そして日が暮れると、密かに集めておいた1000頭ばかりの牛の角に松明を結び付け、火をつけて山の上に追い上げた。襲撃態勢を整えた早雲側はほら貝を吹き、鉦を鳴らし、鬨の声を上げて城下に突進。同時に、町のあちこちからは火の手が上がった。山には多数の松明の火がうごめいている。ゆらめく光は、実際の数以上に、早雲側を大軍に見せた。城下町で燃え盛る火は、襲撃する武士たちを悪魔のような形相に照らし上げ、襲撃の恐怖を煽った。あわてた城主側は逃げ惑い、結局、藤頼は脱走、敗退した。光を巧みに使い、実際の数以上に大軍に見せかけて相手側の恐怖心をあおった、この戦略は大成功だった。結局、早雲側の犠牲はほとんどなく、敵方の被害も少なく済んだ。何よりも民衆へのダメージが少なかったので、早雲は小田原の民衆に受け入れられ、治めやすくなったのだ。巧みな光の戦略でスムーズに小田原城を手にした早雲は、その後、小田原を繁栄に導いたという。