子牛を使った人工心臓埋め込み手術の実験

2012-02-05

子牛がトレッドミル・歩行実験装置のベルトの上を歩いている。ねばっこい趾を口のまわりにまきつけ、喘ぎながら、それでもたしかな歩調を進めている。からだには、いくつものチューブやコードが取り付けられている。ただの子牛ではない。彼の胸の中には、人工心臓が埋め込まれているのである。人工心臓埋め込み手術の1ヵ月後から、子牛は少なくとも週二回の歩行訓練を受けてきた。そして手術後百日、彼は時速三マイル(四・八キロ)の速さで歩くことができるようになったのである。ぼくたちが取材していたとき、埋め込まれた人工心臓は、安静時の五倍もの血流量を全身に送り続けていた。この人工心臓は、ただ機械的にトントンと動いているだけでなく、からだの要求に応じ、その拍動速度を調整することができるという。「この子牛に埋め込まれた人工心臓は、駆動装置がからだの外にあり、まだ一定条件のもとでの使用に限られています。しかし、完全埋め込み型になれば、健康人と同じように風呂にも入れるし、テニスやゴルフを楽しむことができるようになります。また、血流量を調節するセンサーにもうひと工夫必要ですが、もっと激しいスポーツ、たとえばボストン・マラソンヘの出場も可能になるかもしれません。しかも、その際、人工心臓は疲れを知らないわけですから、とてつもない新記録が生まれることも考えられます」クリーブランドで人工心臓を埋め込んだ選手が、ボストンの心臓破りの丘を駆け登る。四二・一九五キロを走り切って、走りおえたときも、息が上がっていない。N医師ならそんな人工心臓を作るかもしれない。彼には、人にそう思わせる何かが、たしかにあった。